かばのにおい

「彼女」について綴るための場所。非常に私的な内容となりますのでご了承ください。

腸煮えくり返り

 僕の父方の親戚一族は最悪の塊である。

 僕とって、親戚としての感謝とか、思い入れというものは一切ない。

 顔を知っている他人くらいの位置づけ。

 それなのに向こうは親戚ヅラしてくる。

 こっちはあちらに何も求めていないのに、向こうはこちらに求めてくる。

 僕が20歳になったとき、祖父母からお祝いのお金をもらった。

 僕はその時から当然祖父母が好きじゃなかったから、電話でお礼を言いたくもないし、菓子折りを持ってお礼に行って済ませようと思っていた。

 ゆえに、お礼に行くまで少しだけ日数が空いてしまった。なんの連絡もないと焦れた祖母が父に小言を言ったらしい。お礼の電話もよこさんのかと。

 それが父から母へと伝わり、僕は強制的にお礼の電話をすることになった。

 母曰く、父は祖父母の言いなりで、僕のことを全く庇ってくれないらしい。

 母はそれが許せないらしいのだが、僕にとってそれは大したことではない。

 おめでとうという気持ちを金銭に代えて僕に与えたわけで、それに対してお礼がないって文句言うのはおかしいだろうということ、ただそれだけがめちゃくちゃ頭にきた。

 お金やったんだから喜ぶだろうとか、お礼されて当たり前って思うのは勝手だ。しかしその考えを押し付けるのは間違いだろう。

 ましてや僕はお礼に行こうと思っていたのだ。

 電話をしなかったのは落ち度として見られることは否定しない。

 それにしたって自分の孫にお礼を催促するとか頭おかしいんじゃねえの?

 どんだけ心狭いの?

 当時の僕はそう思っていた。今もそう思い続けている。

 だからめちゃくちゃ頭にきた。

 今まで嫌いだった父方の親戚が、更に嫌いになった。

 親戚の集まりに顔を出すことが苦痛でしかなかったのでほとんど行かなかった。

 それからしばらく。

 祖母が亡くなった。

 急なことだったので、一族に衝撃が走ったのだが、僕にはなんの感情の動きもなかった。

 近所の知っているおばあちゃんが亡くなったくらいの感覚しか持てなかった。

 ちょっとだけ、自分は相当冷たい人間なんじゃないかと不安になったくらい。

 涙は一滴も出なかった。

 本当に僕は向こうの親戚が大っ嫌いなんだなと認識した。

 それからずっと、僕は親戚の人達と会っていないような気がする。もしかしたら数回は会ったのかもしれないけど覚えてない。

 それでも結婚式には呼ばなくちゃいけないということで、全く来て欲しくないけど招待状を出した。

 出席という返信も来た。

 あとは当日顔を合わせるだけと思っていたのに、今日ちょっとした事件が起きた。

 父が祖父と伯父叔母の家に、結婚式の送迎バスの時間を伝えに行ったらしいのだが、そこで伯父が「おじいちゃんに顔を見せに来たほうがご祝儀がよくなるよ」的なことを言ったらしい。

 それがまた父から母へと伝わり、僕に連絡が来た。

 先述したとおり、僕は父方の親戚が嫌いだから、当然報告にも顔見せにも行っていない。

 行きたくないし行く必要がないと思っていた。

 でも向こうからすればそれは面白くない事態だったようだ。顔を見せに挨拶に来るのが筋だろうと主張したくなるのだろう。

 おじいちゃんとご祝儀をたてに、小言を言ってくる根性が気に食わない。

 僕がご祝儀をたくさん貰いたがっているに違いないと思っている。

 この価値観の押しつけ、そして金銭でしか物事を考えられない稚拙な発想。

 完全に祖母の子どもだなって感じ。

 成人した時のことも今日のこの出来事のおかげで鮮明に思い出した。

 電話をした僕に、祖母は20にもなってお礼の電話もできないようじゃ社会人としてやっていけない的なことをぐちぐち言ってきた。言っていることは至極真っ当なことのようにも思えたけど、お礼を催促してくるような人に言われてても、心に響くわけもなく。くだらないお説教に耐える時間は非常に苦痛だった。

 そしてその苦痛を終わらせるために、僕は思ってもいない謝罪とお礼を述べて電話を叩き切った。

 そして自室に駆け込んで、布団とまくらに八つ当たりをして、怒りに任せて叫んでいたように思う。それくらいもうほんとにめちゃくちゃ腹が立った。

 今日、これとほぼ同等くらいのムカつきが僕を襲った。

 価値観の押しつけ大っ嫌い。

 なんで自分が全部正しいと思ってるのか分からない。

 他人を糾弾できるくらい自分は真っ当な恥ずかしくない人間だという自信はどこからやってくるのだろう。

 自分を省みることができない愚かな人間なだけなのだろうけど。

 この僕のまとまらない主張を冷静な視点で見れば、僕が挨拶に行かないのが悪くて、お礼の電話をしなかったのが悪いという見方ができることは重々承知している。

 ただ僕はめちゃくちゃムカついてる。一般的に見て正しい正しくないとかいう判断基準はどうでもいい。

 僕はあの人達に、お祝いのお金をくださいとお願いしたことはないし、結婚式の招待状は出したけど、ご祝儀がたくさん欲しいなんていってない。出席だって別にしてほしくない。

 僕が子供の頃からずっと、僕のために何かしてもらった記憶はない。

 祖父母にだって、何かを買ってとおねだりしたこともなければ、お年玉以外でお小遣いをもらったこともない。

 伯父伯母にだって特に何もしてもらっちゃいない。

 僕だって非常識な人間なわけではないから、きちんとするべきことくらいは分かっている。

 ただ、それをする必要がないと判断しただけのことだ。

 こちらが関わりたくないのだから、関わりに行かないし、関わってくれなくていいと思っているのに、勝手に向こうが関わってきて、関われ関われって言ってくる。

 なにその押し付け。

 目的はなに?

 理解に苦しむ。

 こんな風に僕がぷんすこして彼女に連絡したら、僕の気持ちをよく分かってくれた。

 一緒に行ってもらわないといけないから、彼女にも迷惑を掛けてしまうなあ嫌だろうなあって思ってたけど、いいよって言ってくれた。

 どんな風に対応するかの作戦会議もしてくれて、二人でうまくやろうって話し合った。

 彼女ならどんな状況になったとしても、うまくやってくれると思う。

 クソみたいな親戚の前に出しても、心配はない。

 本来、こんなクズの集まりみたいな親戚に会わせるのは、かなりの問題が発生する可能性を秘めていると思う。

 嫌な思いをすることはもちろん、失態を犯し、向こうに付け入る隙きを与えてしまう可能性だってある。

 でも彼女だったらうまくやってくれる。間違いない。

 こんなに信頼できる人は他にいないと思う。

 めちゃくちゃ印象良く行くことも、馬鹿なふりして嫌味を言いまくることも、おとなしくしていることも、なんだってできる。自由自在である。

 超頼もしい。

 明日挨拶に言ってくるけど、理想は無駄な会話を一切せず、挨拶をして仏壇に線香をあげて、それでは!って帰ること。

 関わり合いになりたくない。

 どう思われても別に構わないけど、もうこれ以上関わってこないで欲しい。

 明日の訪問が憂鬱ではあるけど、ぱっぱと終わらせてしまいたい。

 おわり。