かばのにおい

「彼女」について綴るための場所。非常に私的な内容となりますのでご了承ください。

信者Tさん

 職場には彼女に貢物をする、同僚のTさんという女性がいる。

 彼女のことが大好きなTさんは、出勤のタイミングが被らずになかなか会えないと、寂しいですと僕に彼女に会いたいアピールをしてくる。

 彼女がいると何か言いたげな顔をしてそちらををじっと見ていたり、ことあるごとに話しかけに行ったりして、彼女の周りをちょろちょろしている。

 彼女より先に仕事を終え、帰るTさんは、ほぼ必ず彼女に貢物をしていく。

 栄養ドリンクだったり、梅のお菓子だったり、チョコだったり。

 その中でも梅のお菓子を渡されることが多い。というかほぼ毎回梅のお菓子は入ってくる。梅のお菓子プラスなにか、みたいな感じで。

 なんで梅のお菓子をくれるか、というと、彼女が以前梅が好きと言ったのを覚えていたのではないかという説が有力。彼女は別に、そのお菓子自体が好きという話をしたこともなければ欲しいと言ったこともないらしい。

 梅好きとは言っても、毎回毎回同じ梅のお菓子をもらっていると彼女も流石に食べきれない。Tさんが好意でやっていることなんだけど、彼女にとっては軽い拷問のような感じになっている。

 彼女に貢物をする延長線で僕にも差し入れをしてくれるようになり、毎回栄養ドリンクをくれる。僕は栄養ドリンク大好きっ子なので、ありがたく頂くのだが、それにしたって毎回くれるので、職場のロッカーの中で溢れる結果となっている。

 増える一方になってしまうので、Y君におすそわけしている。

 僕と彼女、あとくまもんにも差し入れしているみたいだけど何を渡しているのかは知らない。

 Tさんのなかでどういう区別がされているのか不明なのだが、わりと会話もしているY君にはなぜかなんの差し入れもない。笑える。なんで俺にはないんだ…とY君はつぶやいていた。

 そもそも、なぜTさんが貢物をするようになったのかはよく分からないのだが、いつからだったか彼女に栄養ドリンクを差し入れたことがあり、それがいつの間にか日課になってしまったようだ。

 きっと自分が何かあげることで、彼女が喜んでくれるというのが嬉しくて仕方ないんじゃなかろうか。孫に毎回お小遣いをあげるおじいちゃんみたいな感覚。

 Tさんは色々とクセのある人で、そういう好意の表現方法についても不器用なんだと思う。彼女のことが好きっていうのも態度として全面に出してはいるものの、それでは足りず、差し入れという形で好意を表現するようになったのだろう。

 僕と彼女はTさんのお財布事情を心配してしまう。差し入れしてもらえるのはありがたいのだが、お子さんもいて、ご家庭で必要なお金もたくさんあるだろうに、一回一回の単価は安いにしてもそれが月に10回以上ともなればかなりの出費だ。

 ギャンブルほどタチは悪くないにしても、彼女や僕たちに差し入れをするという快感にハマってしまって、止められなくなって破産してしまわないかと、少し心配になる。

 彼女は大量の梅攻撃に困り、遠回しに差し入れはもう要らないですよと言ったが伝わらず、ならばと直接的に、お金がかかるのでいいですよと断っても通じなかった。

 今はもう断ることを諦めてありがたく頂くことにしている。

 好意で渡してくれていて、その好意を断ることでTさんを傷つけてしまうのならば、甘んじて受け取ろうというのが僕と彼女の見解だ。喜んで受け取ることがTさんのためなのではないかと。

 貰った栄養ドリンクを飲んで頑張ったという話を彼女がTさんにしたら、ものすごく嬉しそうな顔をしていたとのことだったので、彼女を喜ばせて、彼女の役に立てて、きっとすごく嬉しかったんだろうなと思う。

 彼女に何かあげて喜んでもらえたときの嬉しさっていうのは、僕も何度も味わったことがあるからよく分かる。Tさんは、僕と同じくらい彼女のことが好きだと思う。Tさんにとって彼女は崇拝の対象なんじゃないかと思うくらいだ。彼女としてはそこまでされる理由がわからないらしいのだが。傍から見た感じ、崇められている。

 だからきっとTさんにとって、彼女に差し入れをして、喜んでもらうということは、一日の楽しみであり、生きがいみたいなものになっているんじゃないかなと思う。

 Tさんが幸せなら、それでいいんだけど、それにしても貢ぎ過ぎな感じはする。

 今日も貰っちゃったと彼女と苦笑いしあう日々はまだしばらく続きそうな予感がする。