かばのにおい

「彼女」について綴るための場所。非常に私的な内容となりますのでご了承ください。

さようなら座敷わらし

 僕がもしゃもしゃとカレーを食べていたら、彼女から「重大ニュース」と題された連絡が来た。

 見てみると「座敷わらしにぶちギレ、ついに座敷わらしを見限る」という内容のニュースだった。

 座敷わらしは、このブログにも何度も登場している、ダメな子。

 彼女がずーっと面倒を見てきた。何度も何度も同じことを教えて、何度も何度も裏切られてきた相手だ。

 それでも諦めずに気にかけてあげてた。

 その彼女が見限るっていうのは大事件。

 事の発端は、仕事中お客さんに見えるような場所で前髪を切ってたっていう、驚愕の事態。

 驚愕なんだけど、実は前にもあった。僕がゴミ箱見たら、切られた前髪が入っていたのだ。近くには座敷わらししかいない。すぐにこいつじゃん!ってなった。仕事中に前髪切るっていう事実が衝撃的過ぎて受け入れられず、その場で注意することができなかった。

 結局注意はして、彼女も後で注意してた。

 それなのに再び同じことをしでかした。

 そりゃあぶち切れてもいい。僕でもぶち切れてた。

 思わず食べ物で座敷わらしの頭をスパーンと叩いてしまい、我に返ったそうだ。

 それから食べ物に謝ったらしい。食べ物は悪く無いから。この部分だけ聞くと面白くって、しかも彼女が可愛いなって思うんだけど、笑ってられない。

 どうして髪の毛を切ったのかという問いに「つい(やってしまった)」と言ったらしいのだ。もう頭がおかしい。

 以前に注意したことをまたやってるとか、前髪切るのがいかんとか、そういうことももちろんある。ただ彼女にとって、この一連の流れはそれ以上の問題だった。

 彼女は今までずっと、座敷わらしのために心を砕いてきた。

 ミスをしたらフォローをするし、再発防止のためにどうすればいいか考える。

 仕事が覚えられなかったら、何度も教えるし、覚えられるようにするためにどうしたらいいか考える。

 こういうことを何度もしてきた。

 今まで見限ることなく、ずっとやってきたのは、彼女が優しかったから。それと座敷わらしが少しずつでも成長していってると信じていたから。

 座敷わらしは、ミスして怒られても、悪いことをして叱られても、再び這い上がって頑張ろうとしてきた。これは彼女が唯一座敷わらしを評価している部分だった。だからこそ、彼女は諦めずに座敷わらしのために頑張ってきた。

 しかし今回、ミスとか不注意を通り越した問題を起こしたわけだ。

 髪の毛を切るという行為は、ついついやってしまったとか、クセでやってしまったとか、そういうレベルのものじゃない。

 「前髪気になるなあ」→「切りたいな」→「今切ろう」→「ちょっきん!」

 この流れのためには、髪を切ろうという明確な意志がないといけない。

 思わずやってしまったなんてことはありえないのだ。

 座敷わらしは注意されて、反省していたはずだった。しかしそれは完全にポーズで、注意も聞いていなければ反省もしていなかったということになる。

 いくら本人が、ついやっちゃったって言っても、事実がそうではないと物語っている。

 彼女が言っていたことを、きちんと聞いていませんでした!と体現してしまったのだ。

 彼女にとってそれは何よりもつらい裏切りだった。

 座敷わらしのために割いた時間の全てが無駄だったと突きつけられた瞬間である。

 周囲の人にとって今回の件は、仕事中に前髪を切ったありえない行為というだけのものかもしれない。

 しかし彼女にとっては、座敷わらしを見放したくなる程の重さを持った、あまりにも大きな衝撃だった。

 僕はずっと、彼女が座敷わらしのために苦心してきたことを知っている。だから彼女が受けた裏切りに、腹が立つ。彼女の気持ちもよく分かる。

 ただ悪いことをしたっていうだけじゃなくて、彼女の努力や思いやりを全て踏みにじったわけだ。もう二度と彼女の心が座敷わらしの元へ戻ることはないだろう。戻る必要もないと思う。

 未だ、彼女が怒った真意を理解できていないだろうから、座敷わらしが成長する可能性はない。

 彼女が気の毒でならない。

 彼女に謝っても許してもらえず、へこんでいたらしい。つらいのはお前じゃなくて彼女だよ!!ばかやろう!!

 さようなら座敷わらし。