くそみたいな職場
さすがに今日はムカついた。
今まで、職場で何か問題が起こっても、周囲の人の都合とか考えて文句をなるべく言わないようにしてた。あの人は立場的にそうせざるを得なかったのだろうとか、あの人はそういう性格しているからああ言ってしまったのだろうとか、自分の中で折り合いを付けられる理由を探して、納得して、不満とか文句を消化していた。
でもさすがに今日は黙っていることができなかった。
事の発端は一昨日。仕事で必要なパーツがあって、それは何種類かあるのだが、今回送られてきたパーツが、前回に比べてあまりにも少ないということに気づいた。毎回送られてくる数が足りなくなるので、職場にあるものでなんとかまかなっているような状態なのだが、今回はそれにしたって足りない。
既にこれで作業している人から、仕事を引き継いだので、僕は不便なりに工夫して、パーツを自分で作って作業を進めた。当然普通にパーツが揃った状態よりも時間と手間が掛る。彼女も同じ作業をしていて、終盤は二人で掛り切りで作業をした。
それでも作業量が多くて終わりきらず、翌日に引き継ぐことにした。今日はここまでにしようって全力を尽くしたあとで、部屋の片隅に置かれたパーツを発見。見ると今日僕たちが作業していたところに必要なパーツだった。
僕たちが作業をする前に確認すればよかったという見方はもちろんできる。自分たちに落ち度が0だったとは言わない。
ただ、既に作業をしている人がいて、そこから引き継いだ状態で始めた僕たちが、まさか他の場所に絶対に必要なパーツが無造作に置かれて放置されているなんて考えるだろうか。
さらに言えば彼女が引き継いだ際には、そのパーツが今回はないみたいですと伝えられていたという。
一生懸命、自分たちでパーツを補って作業を進めた、時間と労力が無駄になった。
怒りとか絶望とか呆れとか、いろんな感情が湧いてくるけれど、先に述べたように、自分でパーツの有無をしっかり確認しようとしなかった、という点に関してはこちらの落ち度と言えなくもないなと自分を納得させた。
そして今日、引き継いだ作業の進み具合が悪いうえにミスが多いことを、先に出勤していた彼女から伝えられ、またも呆れることとなった。
僕が出勤するまでの間に、彼女が一人で問題のある部分の修正や終わっていない部分の作業を進めてくれていた。おかげでだいぶ作業は終盤に差し掛かっていたものの、まだ終わったと言える段階ではなかった。
僕も彼女も、とてもやる気があるといえる状態ではなかったが、今日でこの忌々しい作業を終わらせてしまいたかったし、僕たちがやらなければ終わらないという思いもあったので(どうせ引き継いでも誰もやってくれないので)終わらせるために必死で作業を進めた。
今日の作業は、パーツが足りないまま放置されているところを、パーツを作って完成させるというもので、何がいくつ足りないかという面倒かつ時間が掛る確認作業と、それを作成するという時間が掛る作業があった。
彼女が確認してきてくれたものを僕が作成するという作業分担で、作業自体は問題なくスムーズに進み、今日一日の仕事がほぼこれ、という感じにかかりきりにはなったものの、なんとか終わらせることができた。
この時点で、もう僕らしか頑張っていないような状況にうんざりして、疲労困憊だったのだが、更に酷い現実が僕らを襲った。
パーツが足りなかったとき用の、予備パーツがこのタイミングで見つかったのだ。
予備パーツは、一からパーツを自分で作るよりもその半分以下の手間でパーツを完成させられるもの。
今日僕たちがやった作業の半分かそれ以上が、このパーツがあればやらなくてよかったことになる。
問題点はいくつもあるのだが、一つはパーツの管理がきちんと成されていなかったこと。保管場所という概念も無ければ、見やすいところに置いておくという思いやりもなかった。
そしてもう一つは上司がそのパーツの状態を全く把握していなかったこと。実は僕は予備パーツが存在しないことに疑問を抱いて上司に確認をしている。しかし上司は予備パーツの有無を知らず、僕と一緒に探してくれたものの、見つけられていなかった。だから僕はそれがないものとして作業をした。
僕と彼女はこの数日で二度、時間と労力を掛けてやった仕事の大半が無駄だったという事実を突きつけられる経験をした。
しかもこれは自分たちの落ち度ではなく、上司の管理能力のなさから来るものである。
パーツの把握、パーツの管理、そしてパーツを使った作業の指示は本来上司が責任をもって行うことだ。
仕事の経験が長い僕や彼女に任せるならまだしも、経験が浅い人たちに適当に仕事を任せて、その仕事の進捗も分からず、パーツがどこにあるかも分からないでいる状態はあまりにも無責任で愚かだ。
職場を管理すること、職場を正しい状態で維持すること、職場のクオリティを高いレベルにすること、それら全てに責任を持ち、部下に指示を出すのが上司の仕事だ。
今まで僕は、上司に対して仕事をしっかりやれという意見をしたことはなかった。立場的に下のものが、上の者にしか分からない事情を加味しないで意見することが愚かだと思っていたから。
だが、今回のことに関してはさすがに、堪忍袋の緒が切れた。
本来なら最高責任者であるチンピラに直接意見したかったのだが、今日はいなかったので、紙に、上司がしっかり責任持って管理して欲しいということを書いてみんなの見えるところに貼って帰ってきた。
彼女はかなりご立腹で、僕はそんな彼女を見たときに、僕にはそこまでの感情が湧かなくて不思議だなあって思っていたんだけど、紙に僕の意見を書いていたら腸が煮えくり返ってきた。僕の怒りはだいぶ遅れてやってくるらしい。
仕事終わりにそのことや、職場の後輩の育成方針などに関して彼女としばらく議論を交わした。僕が前から感じていたことや、思っていたことが彼女から意見として出てきて、僕もそう思ってたんだよ!って嬉しくなった。ここでの話し合いはすごく有意義で、仕事でたまった鬱憤みたいなものが少し晴れた。こうやって話ができる相手がいることがすごく大事だなと思う。それが彼女でよかった。
明日以降どうなるのか、僕には想像もつかないし、今はしんどくて考えたくもない。彼女も今日はぐったりだろう。
自分のもった怒りとか意見が、間違っていないか、見当違いなことを言っていないかと不安になるのだが、彼女が同じ意見でいてくれるのならば安心だ。僕と彼女の意見が同じならば、何も恐れることはない。
とりあえず今は少し、心を休めたい。