かばのにおい

「彼女」について綴るための場所。非常に私的な内容となりますのでご了承ください。

凋落

 我が職場の座敷わらしが最近、本当にだめなやつになった。

 今後の話の理解に必要だと思われるので、座敷わらしがどんな人物か簡単に説明しておく。

 ミスが多い。本当にミスが多い。同じミスを何回もやらかす。

 話を聞いていない。聞いていないのか理解できないのか、はたまた両方なのか判別しにくいのだが、とにかくこちらの会話と座敷わらしの発言が噛み合わない。

 一歩進んで五歩くらい下がる成長度合い。彼女がこの職場に入ってすぐ、そのダメさ加減は周知の事実となったようで、彼女が必死に仕事を教えていた。教えたことを吸収して成長していくかと思いきや、いつの間にか退化している。前に普通にできたことが、急にできなくなっていたりする。

 これが座敷わらしの基本スペックだ。

 これだけでもう絶望しそうになるくらい仕事において使えない存在なのだが、去年くらいから更に使えなさが上がってきた。

 悪化した項目をあげていく。

 ミスが多いし反省しない。ミスを指摘されて反省して気をつけるならいい。また同じミスをしてしまうにしても、気をつけていた結果ならまだ許せるし、申し訳無さそうにしてくれればこちらも優しく対応できる。だが、最近の座敷わらしは悪びれない。なんだったらちゃんとやってましたとか言っちゃう。

 話を聞いていない度合いが増した。前々から噛み合わない会話を繰り広げてはいたけど、最近それに拍車が掛かった印象を受ける。

 先日彼女が「友達の話なんだけどね」と友人の職場に関する話を始めた。するとそれを聞いていた座敷わらしは「(彼女)さんのお友達でもそこで働いてるんですか?」と言った。

 は?なにいってんの状態。

 こんなことが一日に何度もある。

 そして今まで教えたことの巻き戻りが五歩どころじゃなくなった。この仕事の基礎中の基礎。いつも流れでやっていることができなくなった。お辞儀の仕方でさえちゃんと理解してないときた。分離礼のやり方を実践させたところ、お辞儀をしてからこんにちはと言い放った。一体彼女は今まで何を聞いて、何をしてきたのだろう。それができないのはおかしいと言ったら、急にやれって言われてもできないと言う。呆れ果てる。

 僕たちは以前、座敷わらしに発達障害があるのではないかという疑念を持ったことがある。座敷わらしを病院へ連れて行くわけにもいかないので、それは疑念のままなのだが、仮にそれが事実だとして、座敷わらし自身がいくら頑張って努力して、いくら気をつけていても、障害のせいでどうにもうまくできない、というのであれば、こちらもそれを責める気は起きない。そんな座敷わらしでも仕事を続けられるように手を貸そうと思えるかもしれない。

 だが、今の座敷わらしには到底、努力というものが感じられない。仕事でミスをしないように気をつけようとか、話をちゃんと聞こうとか、そういう意識も感じられない。人が話している時に手の甲の産毛を抜き、就業中に前髪を切りそろえやがる。完全に仕事を舐めている。同時に僕や彼女といった周囲の人間のことも舐めている。そうとしか思えない。

 注意力がない、仕事に対する責任感がない、努力する気持ちがない。

 こうなってしまえばもう僕たちにできることなんてない。速やかに仕事を辞めてもらう他ないと思う。

 忙しくて時間に追われている時に、ヘラヘラした態度で話しかけられたらイラッとするし、何度も言ったことができてなかったらイラッとするし、こちらの精神状態にもよくない。優しくありたいって思っているのに、こちらの感情全部無視してぶつかってくるんだからどうしようもない。

 おかげでY君は座敷わらしのことが相当嫌いになってしまったようだ。僕もかなり厳しいところに来ている。できれば関わりたくないレベルに嫌い。

 今日は彼女が座敷わらしの仕事の不手際に直面し、さらに舐めた態度を取った場面にも遭遇し、かなり絶望したようだ。私も嫌いになりそうって言ってた。

 彼女は本当にずっと座敷わらしのために尽力してきた。こんな状態の座敷わらしにも真剣に向き合って注意したり叱ったり、優しく諭したりしてきた。

 そんな彼女が、嫌いになりそうって言った時、今までよくがんばったって思った。周囲の人間が一度座敷わらしに向き合って、なんとかしようとして、諦めて去っていく中、彼女は何度も何度も諦めずに向かい合った。

 無責任な言い方かもしれないけど、もう嫌いになっていいんじゃないかなって思った。

 座敷わらしが今後改心して、頑張ってくれるという可能性が閉ざされたわけではない。もしかしたらなにかうまいやり方があるのかもしれない。でもそのために、彼女が苦労し消耗する必要はないと思う。今までの彼女の努力が無駄だったわけではないし、教えてきたことに効果がなかったわけではない。その証拠に座敷わらしの中に根付いたものはきちんとある。

 座敷わらしが今こうなっていることは、彼女のせいではない。彼女の努力が足りなかったわけでも、彼女のやり方が悪かったわけでもない。

 こうなってしまった原因は、座敷わらしの慢心でしかない。

 仕事ができなくても今までやってきた、やってこられたということが、座敷わらしにとって自信に繋がっているのかもしれない。

 それは、職場全体として、一日の職務を全うするために、たとえ座敷わらしが仕事でミスを犯しても、できていなことがあっても、放っておくわけにはいかずに周囲がフォローしているからやってこれただけのこと。

 それを自分は今までちゃんとやってきたと思っているとしたら勘違いも甚だしい。

 少し前までは、まだどうにかなるんじゃないかっていう気持ちがあった。言えば分かってくれるし、気をつけてくれると。きっと彼女もそう思っていたはずだ。

 でももう今はどうにかなるとしてもどうにもしたくないという気持ちでいっぱい。

 最後の砦であった彼女が、座敷わらしを見放した時、座敷わらしが己の過ちに気づいたとしてももはや手遅れである。

 残された時間は少ない。いや、もうないかもしれない。

 僕が思うのは、彼女が気の毒でならないということ。そして彼女はよく頑張ったということ、彼女に非はないということだ。

 非常に残念。