かばのにおい

「彼女」について綴るための場所。非常に私的な内容となりますのでご了承ください。

事実フェチ

 彼女と彼女自身の性格について話をしていた時に「事実フェチ」という言葉が出てきた。

 彼女が事実を追い求め、事実しか信じないという究極のリアリストであるという話。

 たとえば、彼女が誰かと長い時間話し込んで愚痴とか悩みを聞いてもらっていたとする。そうすると最後に彼女は「こんなに長く話しちゃってごめんね」と謝る。それに対して相手は「いいよいいよ、話が聞けてよかった」と言ってくれる。

 この会話ならば表面上、何の問題もないように思える。ごく普通のやりとりだ。

 だがここで彼女は、本当に相手が「いいよいいよ、話が聞けてよかった」と思っているのかという疑問を持つ。本心では「めんどくさい話を長々聞かされて最悪」とか「こいつ話長いから嫌い」とか思われているのではないかという不安を抱く。

 そこで彼女は事実へと辿り着こうと考えを巡らせる。

 相手の性格、こういう時にはこういうことを言う子だとか、感情が表情に出やすいタイプであるとか。その情報を元にさっきの言葉が本心かどうかの判断を下す。

 答えのない問題ではあるから、彼女にとってその可能性が最も高いとか、そう考えるのが最も正解に近いだろうという許容範囲に収まる推論が立てられれば完了。もちろんそれが彼女を安心させる内容であることが重要だ。

 受け答えの仕方、表情、仕草、こういった彼女が本当に見た事実を元に答えを導き出す。

 この件に関して、そこまで気にすることじゃないとか、気にしたっていいことないって思って考えずにいよう、ということを彼女はできない。喉が乾いたら水を飲むように、彼女は事実を求めてしまう。

 この「事実フェチ」はかなり彼女自身を苦しめているのではないかと思う。

 気にしないでおこう、放っておこう、見なかったことにしようという楽な選択ができないのだ。多かれ少なかれ、嫌なことを忘れたり、自分にとって都合の悪いことをなかったことにしたりして人は生きている。そうしないと心が不安定になってしまう。

 まさに彼女はそれができずに不安定になってしまっている。

 常に事実を追い求めるがゆえに、そこまで考えなくてもいいやという感じで割り切ることができないのだ。

 毎回毎回国語のテストの「このときの登場人物Aの気持ちを答えよ」っていう問題を解いているような感じ。

 もちろん彼女が事実フェチであることによって発生するメリットというのもある。

 彼女が持つ、観察力。相手の状態を把握したり、感情の機微に敏感であったり、そういうのは彼女が常に事実を求めているから持っている力だ。

 あとは自分の行いを振り返って反省することができること。自分のやったことを客観的に反省するというのはなかなかできることじゃない。それをすることで、自分勝手な行動をとったり知らず知らず誰かに迷惑を掛けているっていうことが少なくなる。

 そしてもうひとつは、答えのない問題に対して導き出す答えの精度の高さ。これはきっと今まで彼女がずっと考え続けてきたからだと思うけど、想像でしかないはずの相手の感情をかなりの精度で見抜ける。思い過ごしだろうとか考え過ぎだよって思うこともあるけど、彼女が導き出す答えというのは数々の事実を踏まえた上のものなので、聞かされた僕はなるほどと非常に納得することが多い。

 事実フェチであることで、彼女が精神的に疲れていくというのはあると思う。だからといって彼女が事実フェチであることをやめることはできない。

 気にしなければいいんだよ!考え過ぎだよ!なんて言うのは簡単だけど、彼女自身もそれを分かっているけどどうにもできない。

 だから彼女は事実フェチとうまく付き合っていかなくてはいけない。

 彼女が自分自身を変えるっていうのは凄く難しい。僕が彼女を変えるなんていうのはもっと難しい。でもできないわけではないと思う。

 彼女が不安にかられて必死に事実を探している現状を、もうすこしゆるやかにできたらいいなと思う。

 今の僕に具体的な案があるわけじゃない。彼女が自分自身の性格を認識し、僕も同じように彼女の性格を認識して、それを踏まえた上で日々生活する。それによって新しく見えてくることとか、新しい考え方に出会えるかもしれない。

 今の僕にできることは、彼女が事実フェチだということを理解し、フォローすることだ。