アピール - かばのにおい

　彼女はアピールするのが苦手なのかな、と思った。

　しんどいですよアピールとか、頑張ってますよアピールとか。

　しないってわけじゃないんだけど、どこかで遠慮してしまう部分とか自制してしまう部分があると思う。

　それはどうしてかといえば、アピールしたい、つまり分かってもらいたい理解してもらいたいっていう欲求と同時に、それを表現してしまうと嫌がられたり面倒くさがられたりするんじゃないかという不安がつきまとうからだと思う。

　風邪っぽくて調子が悪い、頑張って働いてるのを周囲に理解して欲しいっていうとき、彼女はしんどいっていうのをなかなか言わないし、言ったとしても深刻そうな雰囲気にはしない。それはやっぱり、しんどいとか言ってんじゃないよって思われたくないからだし、構って欲しい、心配されたいからのアピールだと思われたくないからだろう。

　アピールっていうと印象が悪いかもしれないけど、誰もがみんな自分の状態をなにかしら伝えようとすることってあるよね。今日は体調が悪いとか、凄く嫌な事があったよとか、この仕事超がんばったよとか。

　彼女はそれを無遠慮に表現するほど何も考えないで発言する人ではないし、かといって誰にも理解されなくてもやっていける！というほど鋼の心を持っているわけでもない。だから彼女の中で許せる範囲で主張すると、鈍感で馬鹿な人たちにはそれを理解してもらうことができない。でももちろん、彼女がつらいのとか頑張っているのとかをきちんと理解してくれる人はいて、彼女のことを認めてくれたり応援してくれたりするわけだ。

　ただ、理解してくれない馬鹿な人たちが彼女を苦しめるから、どうしてもそれによって彼女が追い詰められてしまう。悲しくなったり辛くなったり、憂鬱になったり。

　万人に理解してもらうというのは難しいことはもちろん分かっているし、彼女もそれを求めているわけではない。彼女が求めているのは自分のやっていることに対しての正当な評価とか、自分の体調が悪い時にそれとなく察してくれるくらいの軽い心配とか。凄く心配されたいとかじゃなくて、調子悪い中頑張っているんだなってことを分かってもらえるだけで彼女は頑張れるのだ。

　彼女のささやかなアピールで、ほんの少しだけみんなが彼女のことを理解してくれれば、彼女はきっと満たされるし、つらいことも乗り越えられると思う。彼女が求めているのは決して大きいことではなくて、ほんの小さなことなのだ。

　職場環境が悪い、働いている人が悪いと言ってしまえばそれまでなんだけど、彼女の周囲にもっと思いやりがあって、人として優れた人たちがたくさんいれば、彼女の心はもっと穏やかでいられるんだろうなと思う。

　僕を含め、彼女のことを理解してあげられる人は間違いなくいる。彼女はみんなが敵に思えるなんていうけど、彼女の味方になってくれる人はたくさんいると思う。マイナス方向の人たちばかりが悪目立ちしてしまうけど、彼女のことを考えて彼女を支えてあげたいと思っている人はいる。その中でも僕が一番そう思っているはず。

　彼女がアピールするのが苦手かもって話だったけど、ここまでで述べたように彼女自身が主張しないように自制しているからっていうのもあるけど、周りの人間の質が低いからそうせざるを得ないという点が非常に大きい問題としてあると思う。

　彼女が自分でアピールするんじゃなくて、僕が間接的にうまい具合に彼女の頑張りとか辛かったこととか、体調の良し悪しとかそういうのを周囲にアピールしていけたらなと思う。