かばのにおい

「彼女」について綴るための場所。非常に私的な内容となりますのでご了承ください。

おわかれ

 春。出会いと別れの季節。

 一つ、新しい別れがあった。

 だるまさんの異動。

 何日か前にその事実を知らされた時、あまりの意外性のなさに「あぁそうなんだ」っていう感想しか湧いてこなかった。職場の大半の人が僕と同じように薄い反応をしたであろうことが想像できる。

 意外性のなさ、そして面白みに欠ける感じが実に彼らしい。散々な言い方だけどこれは褒め言葉だ。

 僕も彼女もだるまさんの人間的にだめな部分を知った上で、どこか憎めない可愛らしさみたいなものを感じている。悪い人ではないけど間違いなくだめな人であるという評価は揺るぎない。そしてそれをどうにかするためには少し歳を取り過ぎていて、手遅れ感が漂っている。今の彼を愛し支えてくれる女性が現れることを祈るばかり。

 さて今日は、だるまさんにとって我々がいた職場は凄く居心地の良いものだったのではないかという視点から彼女の貢献度について書いていきたい。

 僕はだるまさんとの付き合いが長く、今の職場で一緒に働く前から彼のことを知っている。彼は性格的な問題を抱え、同僚や部下と上手くやっていけないことで有名だった。キレやすいとか感情が態度に出ちゃうとかそういう感じの。

 ただ前述したように根が悪い人というわけではないし、普段は話しやすいから僕は嫌いではなかった。むしろ好意的な感情を抱いていた。

 大抵、人は他人の表面上しか見ない。だからだるまさんのことを表面上で捉えれば、感情の表出が激しい人で付き合いづらい、という評価になってしまう。まあこれも間違ってないんだけどね。

 だから今まで彼が働いてきた職場では、職場の仲間達との軋轢が生じてしまっていた。今の職場でもそれは少なからずあった。でも今の職場には彼女がいる。それはとても大きなこと。彼女は表面上だけで相手を捉えない。どうしてそういう言動をとるのかという理由を分析できる。だから、イライラしがちなだるまさんがどうしてそういう態度を取ってしまうのか、そしてそのイライラをどうすれば解消できるのかというところまで考えられる。

 イライラしていたあいばさんが何度彼女に助けられたことか。そしてそのお陰で何度職場の空気が救われたことか。偏に彼女の配慮の結果である。

 機嫌が悪い時だけじゃなく、彼女は頻繁にだるまさんの話し相手になってあげていたし、なにかと構ってあげていた。徐々に彼を避けて行く今までの人達と彼女は違った。きっとだるまさんは助けられていたという自覚はないにしても、彼女との交流によって嬉しかったり楽しかったりしたはずだ。

 彼女を見ていて、僕もだるまさんの機嫌が悪そうなときに奥せず話し掛けて気分転換を目論むことができるようになった。彼女がそうしていなければ僕も徐々に距離を置いていたかもしれない。

 それに、彼女がいなければ他の職場の人達からもっとだるまさんに対する不満が出ていたかもしれない。彼女は人と人の間に入って緩衝材の役割を果たすことができる。だるまさんに不満を持っている人とだるまさんの間に入って、両方のフォローをすることができる。不満を持っている人も話せる相手がいれば多少なりともそのストレスは解消されて爆発までいくことはない。彼女はそうやって色んな人から不満を聞いて共感し、必要があれば対策を練り実行に移していくことで大きな問題が生じないように苦心していた。

 彼女がそうするのは、各々のためでもあり、職場のためでもあり、そして自分のためでもある。彼女は自分の利益のためだけでなく、みんなの利益のために動くことができる。

 そんな彼女のおかげでだるまさんは今の職場で居心地よく働けていたんじゃないかなと思うのだ。彼女が休みの時と彼女がいる時ではきっと心持ちも違ったんじゃないかな。僕がそうであるように。

 きっと彼は異動した先で我々の職場が恋しくなるだろう。

 いつか彼女と二人でだるまさんに会いに行ってあげようかなあと思っている。