かばのにおい

「彼女」について綴るための場所。非常に私的な内容となりますのでご了承ください。

近い存在

 彼女が友達の中で最も信頼しているであろう人がいる。ももちゃんという名前の、彼女の良き理解者であるとっても良い子だ。

 そのももちゃんが先日、泣いちゃったっていう報告が彼女からもたらされた。事情が分からないまま彼女と直接話す時間がなかったので今日まで詳細が不明だったのだが、彼女と会って話を聞いてなんとなく把握した。

 具体的に書くとあれなのでぼかすけど、彼女とももちゃんは同じ趣味のサークルのようなものに所属していて、その日はその集まりがあった。彼女とももちゃんはその集まりの後予定があったらしいんだけど、他の人との兼ね合いもあって終わった後の雑談が長引いていた。するとももちゃんが「私早く帰りたいんだけど」みたいなことを言ってきたらしい。そんな風に強めの主張する人ってイメージがなかったから話を聞いていてちょっとびっくりしたんだけど、彼女が言うには仕事とサークルとの兼ね合いやらで疲れていてストレスが溜まっていたんじゃないかということだった。

 僕はその場にいたわけじゃないから、空気感とか状況が分からないし、さらに言えばももちゃんのこともそんなに知っているわけではないので見当外れかもしれないけど、ちょっと考えを書く。外れてたら恥ずかしい。

 あとで出てくるけど、ももちゃんは彼女の一番近い友達でいたいって思っているらしい。それは僕が思っていることとすごく近くて親近感を覚える。ある意味ライバルかもしれない。

 さて、そういう視点から今回の出来事を見ると、彼女がいろんな人と楽しく話をしているっていう状況は非常にもどかしく感じたかもしれない。そして予定があるのに雑談が終わらない雰囲気だと、まるで彼女に自分がないがしろにされているように感じてしまったんじゃないだろうか、とも思う。予定が雑談を切り上げるほどの価値がないと彼女が考えているんじゃないかという不安を抱いたかもしれない。自分と他の人達との雑談を天秤に掛けた結果、他の人達を選んでるんじゃないかみたいな思考。ちょっと大げさすぎるかな。

 ともかくそんなことを考えてしまった可能性がある。そして普段ならばそもそもこんなことを考えないだろうし、もし何か不満を持ったとしてもあえて口に出そうなどとは絶対に思わないだろう。でも彼女が言っていたように、疲れやストレスがももちゃんの心を弱くしていたとしたら、余裕がなくなって冷静な判断ができなかったんだとしたら、その思考がどんどん深刻化していって「早く帰りたいんだけど」という台詞に繋がったんじゃないか、というのが僕の分析。

 彼女がなにか不安を抱えていたり、ストレスを抱えているとき、それを話す相手がももちゃんだ。もちろん僕にも話してくれる。僕とももちゃんは彼女にとって似たような立場にいるのかなって思う。

 彼女が不安やストレスを抱えているときは普段の彼女からは考えられないくらい弱々しくて脆い。だから相談される側としては全力で彼女を支えてあげなきゃって思うし、同時にこれを話してくれる、頼ってくれるってことは自分をすごく必要としてくれてるなって感じる。彼女の全てが分かったような、そして全幅の信頼を寄せられているような、非常に満たされた感覚になる。僕がそうだから、きっとももちゃんもそれに近い感覚を得ているんじゃないかと思う。他者から100%に近いくらい信頼されているって実感する感覚というのは相当な快感をもたらしてくれる。

 そしてそうではない時、つまりいつも通りの彼女のときは、いろんな人に気を配って笑顔を振りまいてとても素敵だ。内心どう思っているかは別として楽しく過ごしてるように見える。彼女が元気なときは、みんなの彼女なのだ。自分だけの彼女ではいてくれない。当たり前のことなんだけど、あの脆くて壊れてしまいそうな彼女を知っているとあれくらい全力で頼られる感覚を常に求めてしまう。自分だけを必要としてくれているって思いたくなる。

 ももちゃんが大切なとか、近い友達でいたいって言っているのに対して、彼女が「私にとってももちゃんがどれだけ大事な位置にいるのか理解してなかったみたい」と言っていたけど、あの強烈な求められている感覚と比べてしまうと普段彼女がももちゃんのことを考えて取っている言動だけでは分かりにくいのかなと思った。彼女の気持ちが伝わってないわけではない。自分のことには誰しも気づきにくい、という要素にプラスして、彼女に必要とされた時のあの感覚が理解を阻んでいるんじゃないか。冷静に考えれば、ももちゃんもきっと彼女にどれだけ思われてどれだけ必要にされてるかを理解できると思う。僕から見たら、最近ももちゃんばっかり構ってあげてずるい!って思うくらいだから。ただまあ普段の彼女を見てちょっと寂しく思う気持ちが湧くことはあるのかなあと思うのだ。

 例えば、ある日帰宅すると飼い犬がものすごく喜んでわんわん言いながら飛びついてきてくれたとしよう。次の日喜んで飛びついてくる飼い犬を想像しながら帰宅すると、他の家族と一緒に遊んでいる。そうすると肩透かしを食らった気分でちょっと寂しい。彼女がそういう行動を取るわけじゃないけど、今回ももちゃんが感じた感覚はこういうものに近いんじゃないかなあって思わなくもない。

 予定の件は一連の泣いちゃった話の序章だったみたいだけど、僕はそこがすごく気になった。その思考もしかして僕と一緒なんじゃ?って思ったから。

 僕は彼女に対する独占欲と日々戦っていて、彼女に僕だけを見ていて貰いたいとか、僕のためだけに何かして欲しいみたいな思いを抑圧して生きている。心に余裕があるときは簡単に押さえつけていられるんだけど、余裕がなくなるとそれが漏れ出してろくな結果を産まない。ももちゃんはそこまでじゃないだろうけど同じような思考になったのかなあ、なんて思ったのだ。これが全く違うと僕はただ自分の思考をももちゃんにすり替えてそれっぽく書いたっていうだけになっちゃうけど。

 ももちゃんが言う、大切な友達でいたいとか、近い友達でいたいみたいな言葉は、同時に相手にもそう思ってもらいたいっていう思いがあるはずだ。それは大きさの違いさえあれど、独占欲みたいなもので、相手を大切に思えば思うほど自分を見ていて欲しいって思うのは正常な思考じゃないかなあ。

 自分がものすごく相手のことを大切に思って大事にしていても、相手が同じように返してくれるわけじゃないことは分かっている。それでも求めてしまう。好きだから。

 仕事やサークルの件で出口がなくなって追い詰められていたももちゃんが泣きだしてしまったのは、なんだか何日か前に僕がなんにも上手くできなくて、彼女に嫌な思いや迷惑ばかり掛けてしまって申し訳ないって気持ちと、このままじゃ彼女に嫌われてしまうんじゃないかって不安で泣きだしたのと似ている気がする。

 自分の思いをぶつけることで相手の負担になってしまう、嫌われてしまうんじゃないかという思考はものすごくよく分かる。

 ももちゃんが彼女に話をして関係性が崩れてしまうとか距離を置かれることを不安がっていたのも、彼女がどれだけ抱え込みやすくて、傷つきやすいか知っているからだと思う。自分が放った言葉で彼女を傷つけてしまったら、彼女の負担になってしまったら、そしてそれによって彼女が離れていってしまったら。そう考えたら不安でたまらない。そんな気持ちだったんじゃないかな。

 今回の件はいろんな要素が絡み合っているんだろうから、考えの浅い僕が熟考したところで出るのは薄っぺらい結論かもしれないけど、今日書いたことが真実に少しでもかすっているといいなと思う。