かばのにおい

「彼女」について綴るための場所。非常に私的な内容となりますのでご了承ください。

ハッピー

 今日は彼女の誕生日。

 僕はこの日のために何ヶ月か前から少しずつ準備を初めていた。もう正確には覚えてないんだけど、おそらく彼女の誕生日を意識しだしたのは去年の12月辺りだと思う。その頃から彼女の誕生日に何をあげようかっておぼろげに考え始めた。

 三ヶ月以上先の話だから、当日一緒に過ごせるかなんて分からない。もちろん僕は当日を彼女と一緒に過ごして最高の誕生日にしたいって思っていた。それが叶うのかどうか分かるのはまだ先の話で、とりあえず僕はプレゼントについて考えて毎日を過ごしていた。

 彼女がいいなーって言ったものや、気に入りそうなものをチェックして、プレゼント候補に入れていった。そうして一ヶ月が過ぎ二ヶ月が過ぎた。誕生日の前に、ホワイトデーがやってきた。僕は誕生日のことを見据えながら、ホワイトデーのプレゼントも選ぶことにした。僕は誕生日にあげるもののことを考えて、ホワイトデーのプレゼントは控えめにしようとか考えられないから、その時に最高に良いと思ったものを彼女にあげた。詳細は以前のブログを参照のこと。

 ホワイトデーのプレゼントを用意したのが2月の末。そしてそれを渡したのが3月の頭。3月は彼女の誕生月ということで、この一ヶ月彼女のために全力を尽くそうと思った。ホワイトデーのプレゼントも、焼肉を食べに行ったのも月単位でお祝いしようっていう意思の表れでもあった。でもそれは僕の意識下にあっただけで、決してそれを彼女に汲み取って欲しかったわけではなく、ただ僕がそう心がけて彼女のために尽くそうと考えていただけだった。振り返った時に良い一ヶ月だったなって思ってもらえるように頑張ろうって思っていた。

 ホワイトデーのプレゼントを渡したのと同じ頃、僕は彼女への誕生日プレゼントを何にするのか本格的に考え始めていた。去年の誕生日はくまのぬいぐるみとCD。クリスマスにプレゼントしたのはリップスクラブとリップクリーム。僕が今までプレゼントしたものを踏まえて考えると、彼女が身に付けられるようなものをまだプレゼントしていないなって思った。衣服は難易度高すぎるからアクセサリー類が良いだろうという判断で、僕はいろいろと探してみることにした。いつものようにネットの力に頼って。

 候補に上がったのは、ヘアアクセサリー(バレッタとかシュシュとか)、イヤリング、ネックレス、指輪。イヤリングは以前、耳元のおしゃれは他の部分のおしゃれができてからするものだと思うって言ってたような気がしたので、除外。指輪はサイズよく分からない、してて邪魔かもしれない、する機会が少なそう、そもそも指輪を贈るってなんか重たい?という思いが湧いてきて除外した。残るはヘアアクセサリーとネックレス。彼女はよくシュシュを使っていたし、髪飾りなんかもよく似合う。以前通販雑誌を見て気に入ったと言っていたバレッタを参考にしながら探したけども、なかなかよいものに出会えず、これだっていうインパクトに欠けた。シュシュはなかなか可愛いデザインのものとか多くていいなって思ったんだけど、シュシュをプレゼントって指輪とは逆に重みが無さすぎるというか、誕生日プレゼントには適さないんじゃないかと思った。しばらくヘアアクセサリーを探したのち、ネックレスへと的を絞ることにした。たぶんヘアアクセサリーは二日間くらい探した。

 女性にアクセサリーをプレゼントするという経験が皆無な僕は、まず誕生日プレゼントに適したネックレスとはなんぞや、というところから知る必要があった。そこで「誕生日 ネックレス プレゼント」なんて検索して、喜ばれるブランドってなんなの?どれくらいの価格帯なの?っていうのを調べてみた。

 ティファニーとかディオールとか僕でも聞いたことのあるブランドをちらほら見かけつつ、僕の目に留まったのは「4℃」っていうブランドだった。派手ではなく、シンプルな可愛さのあるネックレスが多く、価格も頑張れば買えないことはないくらいで、僕の心はかなりここで買うことに傾いていた。

 ネックレスについて調べているときに、誕生石という記述を見かけた僕は目からうろこ状態で、なるほど誕生石のついたネックレスをあげたらすごく記念になる感じがするぞ!って思った。わくわくした。そこで「4℃」にて彼女の誕生石であるアクアマリンが付いてるやつにしよう!と思って調べてみた。もうその時の僕は、気に入ったものがあれば金額など気にするものか、というような思考に陥っていた。当初の予算などもう見えなくなっていた。危険な状態だったことは振り返っている今ならば分かる。そうして小さいながらもきれいに輝いているアクアマリンのネックレスを気に入って買ってしまおうとしたときだった。売り切れ。Sold Outの文字が僕を現実に引き戻してくれた。よくよく考えてみれば、僕がネックレスを探していた時期は3月に入っていて、ホワイトデーも目前。そりゃあ無いよね。売り切れてるよね。そこで僕は方向の転換を余儀なくされた。

 いろいろ探して見つけたのはハンドメイドの商品を扱うサイト。個人で作ったものをサイトを介して取引するというようなもので、その道のプロの方もいるのかもしれないけどアマチュアの方々が趣味で出品しているような雰囲気だった。彼女は手作り感があるものとか好きだし、小物系の雑貨は大好きだからここならば何かしら彼女が気にってくれそうなものを見つけられるのではないかとテンションが上った。というか僕もそういうもの大好きなので単純にそのサイトを見て回るのだけで楽しくなった。

 そのサイトでもアクアマリンを使ったネックレスを探して、一時は雫の形にアクアマリンを加工したネックレスにしようかなとも思った。他にもいろんな候補が挙がっては消え、挙がっては消えた。ネックレスに絞ろうとは思っていたものの、ヘアアクセサリーも調べた。休日を丸一日潰しても足らず、仕事から帰ってきて寝るまでの間の時間を使って、更に二日間ほど探した。

 そして候補がある程度絞られてきた頃に僕は出会ってしまった。すごく素敵なネックレスに。ビンテージのガラスを加工して作ったもので、ガラスに青や赤、緑といった色が閉じ込められている。おしゃれでかわいい。一目惚れだった。見つけた瞬間にこれを彼女にあげたいって強く思った。絶対に似合うって思った。ただ、僕は本当にすごく気に入ったけど彼女がそれを気に入ってくれるか分からない。あたりまえだけどね。そもそも彼女は普段ネックレスなんてしない。もらっても付けないし困るなんて言われたら大変だ。必死にネックレスを探してついに気に入ったものを見つけたって時にそんな考えが頭をよぎるのが僕の良くないところだ。でもそんな不安を押しのけてくれるくらい、素敵なネックレスだった。だから僕は勇気を出して注文した。

 出品している方と何回かやり取りをして、注文から数日後にはネックレスが届いた。それがおおよそ誕生日の三週間くらい前。ネックレスが届いてからちょっとして、彼女と雑貨屋さんに行った。例のクッションの雑貨屋さん。その時に彼女がネックレスを眺めて、付けてみたりしているのを見て安心した。嫌いってわけじゃなくて興味も少しはあるんだなって。

 誕生日が徐々に近づいてくると、プレゼントがネックレスだけっていうのが不安になってきた。もしこれを気に入ってもらえなかったらっていう不安に押しつぶされそうだった。気に入って貰えないこと自体が怖いのと、気に入らないものを貰って喜ばないといけない彼女のことを考えるとつらかった。僕はその不安から逃れるべく、別のプレゼントも用意することを画策する。あくまでネックレスがメインだけど、そこに補助として別のプレゼントを用意することでもっと盛り上げてくれるんじゃないかっていう発想だった。そこでクッションが候補に挙がったんだけど結局買いに行くことができず、誕生日数日前になってしまった。

 その頃には彼女と誕生日当日一緒に過ごせることが分かっていて、僕は当日のプランをどうするのかということを考えるので必死だった。ケーキを食べたい、だがどこでケーキを食べるのか。彼女はどんなケーキを食べたいのか。そんなことを考えながら、今まで彼女と過ごして得たヒントを元に、いくつかのケーキ屋さんを候補に選んだ。大体6店舗くらい。テイクアウトしても食べるところがないから、イートインできるスペースやカフェが併設されているところを調べて選び出した。当日彼女にケーキの写真を見せてどのお店で食べたいか選んでもらおうって考えていた。

 そして当日のプランがぼんやりとだけどできてくると、プレゼントに対する不安が再燃してきた。そこで僕が作っていた彼女にプレゼントしたいものリストが活躍する。そこから選び出したのは以前和風雑貨のお店に行った時に欲しいと行っていた触り心地が最高なタオル。これならば脇役として輝いてくれるんじゃないかと思った。仕事もあってなかなか買いにいけないので、当日の朝早めに家を出て、彼女を迎えに行く前に買って行くことにした。

 プレゼントの目処も立って、当日のプランもなんとなく練ることができた。

 僕は誕生日前夜、当日の流れを頭のなかでシミュレーションしていた。

 プレゼントを買って、彼女を迎えに行って、彼女にお店を選んでもらって、ケーキを食べに行って。そこまで考えた僕は一つ気になることがあった。お誕生日おめでとうっていうプレートを付けてあげたい、でも当日ケーキ屋さんに行って彼女が食べたいケーキを選んだ時に、プレートを付けてくださいっていうのってなんかおかしくない?二人でお店に来て、目の前でプレート付けてくださいって言われている彼女の気持ちを想像したら、絶対嬉しくないって思った。むしろ恥ずかしいんじゃないかって思った。じゃあプレートなしにするのか、っていったらそれはできない。彼女はプレート大好きなのだ。だから絶対に外せない。とするとどうすればスマートにプレートを付けてもらえるのかって考えた。導き出した答えは予約をするという簡単なものだった。予約をしておけば、その時にプレートを付けてくださいってお願いもしておける。ただ、ひとつ問題があって、予約をするということは事前に行くお店を決めて置かなければいけない。ということは彼女に行きたいお店を選んでもらえない。

 しばらく僕は考えた。そして気付いた。彼女に選んでもらおうっていう考えが間違いだったのではないかと。彼女に選んでもらうことで、彼女が一番食べたいと思うケーキを食べられることは確かだ。僕が選べばそれが彼女の一番食べたいケーキじゃないっていう可能性が生まれる。それでも僕が彼女をのことを考えて、彼女のために選ぶっていうことに価値があるんじゃないのかなっていう考えに至った。僕が彼女のことをしっかり考えて、誕生日を祝おうって一生懸命やればきっと彼女は喜んでくれる。一番食べたいケーキだとかそうじゃないとかそんなことは関係ない。こんな時までヘタレていてどうするって思った。素敵な誕生日にするために、彼女に喜んでもらうために僕は失敗を恐れてはいけない。

 そんなことを考え始めたのが深夜4時過ぎ。候補に挙げたケーキ屋さんを調べなおして、彼女が気に入りそうなケーキを売っているお店はどこなのか必死に考えた。1時間くらい考えただろうか。どうにか一つのお店に絞ることができた。雰囲気が良くてゆっくりできそうで、彼女の好きそうなケーキがあるところ。もちろん不安は常に隣にいた。ケーキが美味しくなかったら?彼女が気に入らなかったら?考えないようにしても頭に浮かんでくる。

 明日起きたら予約の電話をしよう、そう決意した。僕は電話がものすごく苦手だ。だから予約の電話をするときに言うべき台詞を何度も思い描いた。失敗しないように、必要な情報を伝えられるように。そんなことをしていたら7時を過ぎていた。緊張と不安とわくわくが入り混じって眠れなかったけど、なんとか心を落ち着かせようと努力していたらいつの間にか寝ていた。

 朝起きて、電話で彼女を起こした。彼女を起こすまでの間、予約についてもう一度思い悩んでいた。予約しなくてもいいんじゃないか、プレートなくてもいいんじゃないか。僕の弱い心が壁に立ち向かわず逃げることを選ぼうとしていた。でも僕は万全な形で彼女の誕生日を祝いたかった。ちゃんと予約して、プレートを用意してもらえるように頼んで何の不安もなくケーキを食べに行きたかった。そうすればきっと彼女は喜んでくれるって信じた。へたれてるんじゃないって何度も自分に言った。予約の電話ごときで、と思われるかもしれないけど、僕にとって電話は本当にトラウマもののプレッシャーを与えてくる存在なのだ。そんなことを言っても僕が弱いことには変わりないんだけどね。でも今日はそんな弱い自分に負けたくなくて、彼女のために頑張ろうって思って、電話をかけた。ちょっと恥ずかしい思いをしたけど、無事予約できた。一安心だった。

 あとは支度をして、プレゼントを買いに行って彼女を迎えに行くだけだ。

 急いで支度を済ませて、彼女が準備し終わる前にこちらの準備を万端にしなくてはならない。

 予定通りタオルを買いに行きながら、そういえば以前彼女と立ち寄った時にがま口のポーチを可愛いねって言いながら見たのを思い出した。それにネックレスを潜ませておけば二重の驚きを提供できるんじゃないかって思いついた。タオルとポーチを別々に包装してもらって、ポーチの中にネックレスを潜ませた。予定されたミッションをクリアしたけど、彼女を迎えに行くまでまだ時間があった。ならば更にぷちプレゼントとして、100均のうさぎさんブックエンドを買っておこうと思って向かうことにした。道中、ふと彼女に手紙を書いて渡そうと思っていたことを思い出した。いろいろなことに必死過ぎて完全に忘れてしまっていた。丁度いいので100均でボールペンと便箋を買って手紙を書くことにした。便箋を探したけどなかなかいいのが見つからず、かわいいウサギが描かれたメッセージカードがあったので、それを買うことにした。

 車に戻って、メッセージカードに誕生日おめでとうって書き込む。その後にメッセージを続けようとしたら失敗を繰り返して3枚ほど無駄にした。いつ彼女の準備が完了してしまうか分からないと思って焦っていたのが良くなかった。書き終えたメッセージカードはネックレスと一緒にポーチの中に入れておいた。

 これで本当に準備が整った。何ヶ月も前から準備してきたものを全てを出し切るときがやってきた。

 後編へ続く。