かばのにおい

「彼女」について綴るための場所。非常に私的な内容となりますのでご了承ください。

早めの

 僕は彼女に何かをあげるのが好きだ。それで彼女が喜んでくれるのが好きだし、その姿を見て嬉しくなる。彼女のために何かすることで僕は満たされる。

 今日休みだった僕は、夜出かける予定があったので、そのついでに彼女と会おうと思っていた。それはほぼ確定事項だったのだが、一つ迷っていることがあった。手元にあるクリスマスプレゼントとして用意したものを今日渡してしまうか否か。

 11月に入ったくらいから、彼女に何かクリスマスプレゼントをあげようと考えていた。誰かにプレゼントをあげるって考えると何をあげたらいいのか分からずすごく悩むんだけど、彼女へのプレゼントはそれほど悩まなくても候補がいくつか挙がる。今回はふと目にしたリップスクラブというものに興味を持った。唇がカサカサしてきたとかリップ買わなきゃとか彼女が言っていたし、これはピッタリなんじゃないかと思ったのだ。こういうコスメ的なものを扱うお店に単身乗り込む勇気が出なかった僕は、ネットで情報を集めてみることにした。

 どうやら僕が目にしたリップスクラブはネットのレビューでも評価が高く、僕が勝手に一目惚れしたのもあって、この時点でほぼプレゼントはこれに決定した。あとは、数種類ある中でどれがいいだろうとか、使い方が面倒くさくないかとか、お肌が弱い人でも大丈夫かとか、そういうのをレビューやら口コミやらで調べて半日ほど悩んだ。女性の顔とかお肌に直接影響を与えるものを他人があんまり考えずにプレゼントして、こういうの好きじゃないとか、肌に合わないとかなったら大変だと思って、低い評価をしている口コミを探してそのマイナス要素が彼女に影響を与えるものかどうかとかちょっと神経質なくらい調べた。

 調べ尽くして満足したので、もし合わなかったら僕が引き取って使えばいいやくらいのノリで注文してしまうことにした。もうちょっと後に注文しようかとも思ったんだけど在庫がないとかなったら悲惨だなあと思って、早めに注文しておく安全策をとった。いざ注文する時になって、これ一個だけで大丈夫か?って思い始めた僕は、そもそも彼女がリップを欲しがっていたこと、レビューでリップスクラブと同じメーカーのリップが高評価だったことを思い出し、これを合わせて使えばきっとすばらしいに違いないと信じてリップスクラブとリップを注文したのだった。早く届きすぎてもすぐ渡したくなっちゃうだろうなと思った僕は12月に入ってから発送してくれるように指定して一仕事終えた余韻に浸った。

 そして若干注文したことを忘れかけていた頃、つまりそれが今日なんだけど、お昼過ぎにリップたちが届いた。届いた当初はまださすがに渡すの早いわって思っていた。しばらくしてから明日渡そうかって思い始めた。そして出掛ける頃になって、今日会えるんだから今日渡したいってなった。自分への言い訳として、リップは早めに渡して使ってもらいたい、クリスマスまで待ってたら彼女が別のリップを買って満足してしまうかもしれない、なんて考えていた。出かける直前までうーどうしようどうしようとか言いながら悩んでいたんだけど、結局それを持って出掛けた。ラッピングして持って行きたかったんだけど、そんな小粋なものが我が家に常備されているわけもなく、どこかで買おうにも既に閉店している時間。幸い商品自体に可愛くリボンが付いてるやつだったので、これで許してもらおうと心のなかで彼女に謝りながら持っていった。明日以降にラッピングしてから渡せばいいとは思ったんだけど、もう早く渡したくて渡したくてたまらなくなってた。

 わくわくしながらわくわくが抑えきれなくなりそうになりながら、彼女になるべく平静を装ってプレゼントを渡した。

 彼女は一瞬何事か理解できなかったようだったけど、喜んでくれた。今クリスマスプレゼントって言われても戸惑うよね。どうやら彼女はこのリップスクラブをどこかで見かけたことがあったようだった。なんとなくのお値段も把握していたようで、高いものをって恐縮されてしまった。確かに自分用にって買うにはちょっと高いけど、プレゼントとして誰かに贈るのであればそれ程高いものではないと思う。僕はこれをプレゼントして彼女に喜んでもらいたかったし、彼女の唇が今よりももっと魅力的になったとしたら素敵だなと思って選んだ。これをあげたら喜んでくれるかなと思ったものがたまたまこれで、たまたまそのお値段だったというだけで、他に彼女が物凄く喜んでくれそうなものが500円で売られていたとしたら僕はそれを彼女にあげていたと思う。

 我慢できずに早めのクリスマスプレゼントになってしまったけれど、彼女のためにプレゼントを用意して、それによって彼女が喜んでくれたから僕は今すごく満たされている。もちろんこれをしたから彼女にプレゼントくれっていうつもりはないし、見返りを求めてのものではない。彼女が喜んでくれればそれでいい。