かばのにおい

「彼女」について綴るための場所。非常に私的な内容となりますのでご了承ください。

眠気と覚醒と

 ちょっと眠くて頭が働かないので、彼女との思い出の中で一つ印象的な出来事について書こうと思う。

 ちょっとした事件であり、僕と彼女の仲を近づけてくれた出来事でもある。

 コンビニストーカー事件。

 事の始まりはコンビニの駐車場で仕事終わりに彼女の車の中で二人話をしていた時。

 レオパレスに住む常連のお客さん(以下レオパの人)がそのコンビニへ立ち寄っているのが見えた。何事も無くそのレオパの人が乗った車は走り去ったのだが、数分後、再び姿を現したレオパの人は我々の車に近づいてくると窓をコンコンとノックした。

 車内にいる我々は慌てたものの、彼女はドアを開け、レオパの人との対話を試みた。

「付き合ってるんすか」

 レオパの人は薄い笑いを浮かべてそう言った。この発言と、彼の表情は今でも鮮明に思い出せる。口元は笑みを浮かべているのに、鬼気迫る印象を受ける表情。

 どうやら彼はコンビニの駐車場、車内で二人きりという僕と彼女の状況を見て、我々が付き合っていると思ったようだった。

 密かに彼女へ好意を抱いていた彼は、我々が付き合っているのかもしれないと思ったら居ても立ってもいられなくなったらしい。

 レオパの人は矢継ぎ早に彼女へと思いを伝えた。ずっと好きでしたとか言って。

 彼女はその気持は嬉しいが、それに応えることはできないという事を話し、レオパの人も理解してくれたのか、帰っていった。

 唐突な出来事に僕は驚きと興奮を隠せず、彼女も動揺していた。

 彼女はレオパの人の好意を無下にしてしまった事を後悔しているようだったが、しかしその時取れる選択肢は他に無くて、一方的な好意をぶつけられた彼女は被害者ではあったが加害者ではなかった。

 翌日か翌々日くらいにレオパの人は我々の職場へ買い物に来た。

 彼は僕に対して「先日はすみませんでした、ちょっとテンパっちゃって」という感じですまなそうに謝ってきたので、僕もなんだか申し訳なくなってしまった。

 しかし彼は彼女に一度話をしたいという約束を無理やり取り付けるという下衆な事をしていたので、その申し訳なさなど感じる必要は皆無だった。

 約束の日の前日、また僕は彼女とコンビニの駐車場で話をしていた。

 その時彼女は別件で落ち込んでいて、僕はその話を聞いていた。もちろんレオパの人の事も話していた。

 そこにまた彼が現れたのだ。また同じように窓をノックして。

 彼女を車内に残し、僕が彼の相手をすることにした。事前に彼女と話し合った中で、もし今度彼が我々について探りを入れてくるようなことがあれば、付き合っているということにして諦めてもらおうという作戦を練っていた。

 レオパの人は、やっぱり付き合ってるんすかと僕に聞いてきた。

 僕はなるべく平静を装って「はい」と答えた。

 そうだと思ってましたという反応を返してきた彼は、彼女と話したいと言い出した。勝手に彼女の座る助手席に近づいていって声をかけた。抵抗することもできず、彼女も車から降り話に加わることとなった。

 レオパの人は彼女にも同じ質問をして、彼女もそれを肯定した。

 そこからは彼自身のコンプレックスの話やら、僕の個人情報に関わる話やら、この個人情報に関わる話をずけずけと聞いてくるレオパの人に対して、彼女は僕のために怒ってくれたことをしっかりと記しておく。

 自分はだめだから、彼女に好きになってもらえるわけが無かったとか、自分に自信なんて持てないとかぐだぐだとしゃべり続ける彼に、彼女が半ばキレかけ、いやもうキレて結構な強い口調で彼に対して説教をしたのだが、彼には何も響かないようで、ただ薄ら笑いを浮かべ自分を卑下して、そしていつの間にか責任の拠り所を彼女になすりつけようとしていた。悪いのは彼で彼女ではない。

 僕も頭に血が上って冷静さを欠きそうなのを必死に理性で抑えて、一応平穏に話し合いを進めていったのだが、レオパの人が自分のことばかりを見ていて、彼女が今回の件でどれだけ傷ついているのか、心を痛めているのかに思い至らない愚かさが許せず、そこは我慢できず彼を責めたが、もっと全力で罵ってやっても良かったかなと今になって思う。

 最終的に僕は彼に、これ以上彼女を悲しませるな、彼女に近づくなと言ったのだが、直後お店には行っていいよね?と確認してきた彼の神経は物凄く太いのか、どうしようもなく壊れているのかどちらかだろうと思う。

 執拗にどこかでご飯を食べながら話そうという彼にビビりながら必死に断った結果、この日は徒歩でとぼとぼと帰っていった。

 この事件はその後大きな展開が起こることもなく、レオパの人はまだ店に買い物に来るが何もアクションを起こしてこないという冷戦状態のような小康状態のような、万事解決したと言えない状況が続いている。

 僕と彼女に、彼の乗る車に似た車を見ただけでビビるというトラウマと彼に似た容姿の人を見るとビビるというトラウマを残し。

 そしてこの件で僕と彼女の仲を近づけてくれたことには多少の感謝を払わなければならないのかもしれない。

 彼女の魅力はやはり人を惹きつけてしまうのだと思わずにはいられない出来事だった。